近代5種の馬術除外はなぜ起きた?SASUKE導入と過酷な変革の全貌
近代オリンピックの父、ピエール・ド・クーベルタン男爵が「スポーツの華」「万能のアスリートを讃える競技」として創設した近代五種(近代5種)。100年以上の威信と伝統を誇るこの複合競技が今、オリンピック史上でも類を見ないドラスティックな大変革の渦中にあります。
パリ2024オリンピックでの佐藤大宗選手による日本勢史上初となる銀メダル獲得という歴史的快挙に日本中が沸き立った一方、競技界では伝統種目だった「馬術」が正式に除外され、日本の大人気番組発のカルチャーとして知られる『SASUKE』をルーツに持つ「障害物レース」への電撃移行が完了しました。なぜ五輪屈指の格式を誇った馬術は姿を消すことになったのか、そして新種目は競技をどう塗り替えるのか。現場取材と公式データをもとに、その決定的な真相を読み解きます。
📌 【この記事の重要ポイントまとめ】
- 要点1:東京五輪での馬トラブルと動物愛護団体からの激しい国際批判が引き金となり、IOCの若者層獲得方針も重なって伝統の馬術除外が電撃決定された。
- 要点2:新種目にはTBS番組『SASUKE』を原点とする「オブスタクルレース(障害物レース)」が採用され、競技の公平性と参入ハードルが劇的に改善した。
- 要点3:パリ五輪で銀メダルを獲得した佐藤大宗選手をはじめとする日本勢は、2028年ロサンゼルス五輪に向けて敏捷性と上半身のパワーを武器に世界トップ争いを視野に入れている。
【激震の背景】近代5種で馬術除外が決まった決定的な理由と東京五輪の悲劇
近代五種の根底を揺るがす地殻変動は、2021年の東京五輪女子競技で起きた1頭の馬をめぐる大混乱から始まりました。ドイツ代表のアニカ・シュロイ選手が、貸与馬「セントボーイ」の跳躍拒否によって涙に暮れ、コーチが馬を拳で叩いた行為が全世界へ生中継された事件です。この「東京五輪の馬トラブル」は国際的な動物愛護団体(PETAなど)から痛烈な抗議を浴び、SNS上でも「動物虐待ではないか」との批判が沸騰しました。
しかし、取材を進めると近代5種の馬術除外の理由は単なる感情論にとどまらない、構造的な3つの必然性があったことが浮かび上がってきます。
第1に「競技の公平性(運要素の排除)」です。近代5種の馬術は、選手が自前の馬を持ち込む馬術競技とは異なり、主催者側が用意した馬を本番わずか20分前の抽選で割り当てられる過酷なルールでした。どれほど卓越した身体能力と技術を備えていても、気性の合わない馬を引けば一瞬でメダル争いから脱落するという理不尽さは、長年選手や関係者を悩ませてきました。
第2に「莫大な運営コストと環境負荷」です。五輪の競技会場に数十頭のエリート馬を輸送・管理・検疫するコストは膨大で、開催都市にとって重い財政負担となっていました。そして第3が「IOC(国際オリンピック委員会)による若者離れへの危機感」です。高コストで欧州貴族趣味的なイメージが抜けきらない近代5種は、五輪実施競技の生き残りをかけたリストラ候補の筆頭に挙げられていたのです。国際近代五種連合(UIPM)は生き残りをかけ、100年の伝統に自らメスを入れる決断を下しました。

【競技の変遷】なぜ過酷と呼ばれるのか?伝統の競技種目一覧とレーザーラン
そもそも近代五種は、ナポレオン時代の騎兵将校が「敵陣を突破して戦況を伝える」過酷な任務を擬似体験する軍事起源のスポーツです。心技体の極限を競い合う構造ゆえに、創設以来「五輪で最も過酷な競技」と恐れられてきました。
従来の近代5種競技種目一覧は以下の5つで構成され、かつては5日間かけて行われていたものを、近年はテンポを重視してわずか90分間で連続消化するフォーマットへと進化を遂げていました。
- フェンシング:全選手と1分間1本勝負で総当たりする「ランキングラウンド」と、トーナメント形式の「ボーナスラウンド」を実施。瞬発力と高度な心理戦が要求される。
- 水泳:200m自由形。全身の心肺機能を限界まで酷使する持久力勝負。
- 馬術(※パリ五輪まで):貸与馬による障害飛越競技。見知らぬ馬と短時間で信頼関係を築く適応力が試された。
- レーザーラン(射撃+ランニング):近年の近代5種ルール解説において最大の勝負所となる複合種目。ランニング3000mの合間に50mごとのレーザーピストル射撃(5的命中)を計4回行う。
多くのスポーツ関係者が「近代5種はなぜ過酷か」と問われた際、口を揃えて挙げるのが最終種目であるレーザーランの過酷さです。心拍数が最大値(180〜190bpm)近くまで跳ね上がった極限状態の中で、選手は完全に静止して指先のミリ単位のブレを抑え、的を射抜かなければなりません。動と静の急激な切り替えは自律神経を極限まで摩耗させます。体幹が悲鳴を上げる中で順位が激しく入れ替わるドラマ性こそが、近代5種の中毒的な魅力となっています。
【新時代へ】TBS『SASUKE』が五輪へ?障害物レース導入の経緯と新ルール
馬術の除外決定後、後継種目として白羽の矢が立ったのが、世界中でブームを巻き起こしていた「オブスタクルレース(障害物レース)」でした。この選定において決定打となったのが、日本のTBS系列で放送されてきた伝説的スポーツ特番『SASUKE(Ninja Warrior)』の存在です。
近代5種SASUKE導入の経緯を紐解くと、UIPMは馬術の代替案として自転車やローラースポーツなど数十のアイデアを精査していました。その中で、世界各国の『Ninja Warrior』視聴者層の爆発的な多さと、若年層への圧倒的なリーチ力に着目したのです。UIPMは世界障害物スポーツ連盟(FISO)やTBSと協議を重ね、SASUKEの障害物コンセプトを取り入れた公式レース規格の開発に踏み切りました。
新種目となる近代五種オブスタクルレースは、全長約60〜70メートルの直線コースに、吊り輪、うんてい、斜め壁、バランスブリッジ、そり立つ壁といった難関アトラクションが設置され、選手はこれを自らの肉体のみで走破します。馬という動物のコンディションに左右されていた不確定要素が一掃され、純粋なアスリート自身の握力、体幹、アジリティ(俊敏性)がタイムに直結するダイナミックな競技へと変貌を遂げました。

【データ徹底比較】馬術時代と障害物レース(LA2028)の新旧ルール検証
パリ五輪から2028年ロサンゼルス五輪にかけて、近代5種はどのような変化を遂げたのか。両レギュレーションの決定的な違いとメリット・課題を以下の表にまとめました。
| 項目 | パリ2024五輪まで(馬術採用) | LA2028五輪以降(障害物採用) | 編集部の見解・評価 |
|---|---|---|---|
| 第3種目の内容 | 貸与馬による障害飛越(12障害) | オブスタクルレース(障害物走) | 不確定要素が消滅し、純粋な肉体能力の勝負へシフト。 |
| 所要時間・テンポ | 馬の誘導・準備含め選手あたり数分 | わずか30〜45秒の超高速スプリント | 観客・配信メディア受けが飛躍的に向上。 |
| 選手の年間費用負担 | 高額(乗馬クラブ月謝・遠征馬レンタル) | 中程度(公園・クライミングジムで可) | 経済格差による競技参入の壁が大幅に崩壊。 |
| 求められるフィジカル | 下半身の安定・馬への共感・静的バランス | 背筋・握力・上半身牽引力・動的俊敏性 | クライマーや体操出身者に有利な構造へ変化。 |
| 地域的格差 | 欧州強豪国が圧倒的優位 | アジア・中南米・アフリカ勢の台頭 | 世界的な競技人口拡大に向けた追い風。 |
近代5種ロサンゼルス五輪変更点を検証すると、単に種目が差し替わっただけでなく、アスリートに求められる生理学的アトリビュート(運動特性)が根底から変化したことがわかります。馬術時代は馬への過度な負担を避けるため「脱力と柔軟性」が重視されましたが、障害物レースでは自重を腕一本で支えて前進する「懸垂力と爆発的な上半身パワー」が不可欠となったのです。
【快挙と課題】佐藤大宗の銀メダル獲得と日本代表の最新動向
日本近代5種界において、歴史の分水嶺となったのがパリ2024オリンピックでした。自衛隊体育学校に所属する佐藤大宗選手が掴み取った銀メダルは、欧州勢の独壇場だった本競技において、日本選手として史上初のメダルという快挙でした。
佐藤選手は大会後のインタビューで「最後の馬術がある五輪で結果を出せた誇りと、次世代へバトンを繋ぐ責任」を噛み締めるように語っていました。この銀メダル獲得によって、国内におけるマイナースポーツの枠組みを打ち破り、メディアやスポンサーからの注目度は一気に跳ね上がりました。
現在発信されている近代5種日本代表最新ニュースによれば、日本近代五種協会はLA2028に向けて極めて先進的な強化プログラムを始動させています。従来のフェンシング・水泳のトップアスリートのみならず、スポーツクライミングや体操競技、さらにはパルクール出身の若手選手を積極的に発掘・コンバートするトライアウトを実施。また、入門競技である「近代3種(水泳・レーザーラン)」の普及とともに、全国各地のトレーニング施設に公式オブスタクルモジュールを配備するなど、次世代育成のスピードは世界トップクラスです。
一般に知られていない盲点とネットの誤解|SASUKEとの決定的な違い
新種目の導入発表時、SNSやネット掲示板では「オリンピックがバラエティ番組のアトラクションになった」「SASUKEの有力者を出せば全員金メダルが獲れるのでは」といった短絡的な反応や誤解が散見されました。しかし、プロのスポーツジャーナリズムの視点から見れば、これは完全な事実誤認です。
決定的な違いは「単発の障害物クリア競技ではない」という点にあります。五輪のオブスタクルレースは、200mの全力水泳と過密なフェンシングの総当たりを終え、全身の乳酸が充満したコンディションの直後に実施されます。さらにその後には過酷を極めるレーザーランが控えているのです。
どれほど上半身の筋力に長けていても、障害物で腕をパンプアップ(極度の筋疲労状態)させてしまえば、最終種目のピストル射撃で銃身を支えることすら不可能になります。「5種目トータルでのエネルギーマネジメント」という本質は、馬術が障害物レースに変わろうとも、1ミリたりとも揺らいでいません。
【プロの結論】新時代を制するアスリート像と向き不向きの判断基準
社会構造とスポーツ社会学の観点から分析すると、この近代5種のルール改定は「特権階級の伝統知」から「グローバルな身体知」への完全なる民主化(デモクラタイゼーション)を意味しています。今後、この競技で成功する選手と挫折する選手の条件は極めて明確です。
- 新ルールに適応し躍進するタイプ:
- 小柄〜中背で筋肉の出力比率が高く、体重に対する懸垂力のバランスが優れている選手
- クライミングや体操の基礎があり、空中での空間把握能力と体幹の連動性に長けた選手
- 種目間の切り替えにおいて「心拍数のコントロール」を科学的に管理できる知性派
- 新ルールで苦戦を強いられるタイプ:
- 馬術の技術や経験則のみに依存し、上半身の爆発的筋力トレーニングを敬遠してきた選手
- 長身で手足が長いが、自重を支える握力や広背筋の筋持久力が不足している選手
- 前後の種目への影響を考慮せず、障害物で全エネルギーを使い果たしてしまう選手
【近代 5 種】に関するよくある質問(FAQ)
Q1:馬術はどの大会まで実施され、いつから障害物レースに変わったのですか?
A1:オリンピックの本大会において馬術が実施されたのは「パリ2024オリンピック」が最後です。2028年ロサンゼルスオリンピックから正式に障害物レース(オブスタクルレース)へと完全移行します。国際大会のユース部門などでは、すでに先行して障害物レースでの公式戦が開催されています。
Q2:なぜ馬を自分で用意せず、抽選で選ぶルールだったのですか?
A2:近代五種の生みの親であるクーベルタン男爵が「敵陣で捕らえた見知らぬ馬に跨り、即座に乗りこなして生還する」という軍事的な万能性を求めたためです。しかし現代においては、動物の福祉(アニマルウェルフェア)の観点や、抽選による運不運が勝敗を左右しすぎるという公平性の問題から限界を迎え、ルールの見直しへと繋がりました。
Q3:SASUKEの有力者なら近代5種で五輪を目指せますか?
A3:障害物単体であれば世界トップクラスのタイムを叩き出す可能性は十分にあります。しかし、近代五種は水泳200mを高速で泳ぎ切り、フェンシングで心理戦を制し、激走しながら精密射撃を行う総合力が問われます。障害物能力をフックに他種目を猛特訓して転向を図るアスリートの出現は大いに期待されています。
Q4:近代5種を観戦する際の一番の見どころはどこですか?
A4:何と言っても最終種目「レーザーラン」の抜きつ抜かれつの大逆転劇です。それまでの4種目の総合ポイントが「スタート時のタイム差」に変換されるため、最初にゴールテープを切った選手がそのまま勝者となります。息が上がる極限状態でピストルの的を射抜く緊張感は、他のどのスポーツにもない興奮を味わえます。
まとめ:伝統の解体が生んだ新時代と日本代表の未来
100年守り抜いた馬術に別れを告げ、障害物レースという新風を取り入れた近代五種。一時は五輪競技からの除外すら囁かれた崖っぷちの状況から、自らのレガシーを解体して現代のニーズへと適応した姿は、スポーツ界における最も大胆な自己革新のケーススタディと言えます。
日本のカルチャーである『SASUKE』のエッセンスが五輪正式種目のDNAとして組み込まれ、さらにパリ大会での佐藤大宗選手による銀メダル獲得によって、日本代表を取り巻く環境は史上最高の追い風を迎えています。フェアネスとエンターテインメント性を手に入れた「新生・近代五種」が、2028年のロサンゼルスの舞台でどのような熱狂を生み出すのか。世界を驚かせる日本勢のさらなる飛翔から、目が離せません。 (出典: 近代 5 種(Yahoo!ニュース))