厩務員の年収は1000万超?JRAと地方の格差や進上金の真相を解説
サラブレッドの輝かしい栄光を舞台裏で支える厩務員。競馬ファンの間では「担当馬がG1を勝てば一攫千金」「年収1000万円プレーヤーがゴロゴロいる」といった華やかな噂が絶えません。しかし、そのきらびやかなイメージの裏には、深夜2時からの過酷な肉体労働や、JRA(中央競馬)と地方競馬の間で横たわる圧倒的な経済格差、そして複雑な給与体系が存在します。
2026年現在の競馬界を取り巻く労働環境や賃金体系は、売上の伸長や労働組合の交渉を経て大きな転換期を迎えています。本稿では、関係各所の公開データや現場スタッフの証言をもとに、厩務員の年収事情、進上金のリアルな分配システム、そして未経験から目指す際の厳しい現実まで、包み隠さず検証します。
📌 【この記事の重要ポイントまとめ】
- 要点1:JRA厩務員の平均年収は約700万〜900万円であり、重賞勝ち馬を担当すれば進上金によって年収1000万円超えも現実に到達する。
- 要点2:地方競馬との格差は依然として大きく、南関東や高知などを除けば平均年収は300万〜450万円前後とJRAの約半分にとどまる。
- 要点3:厩務員への道は完全未経験では極めて狭き門であり、牧場や乗馬クラブでの実務経験と難関の競馬学校突破が前提となる。
【真相解明】厩務員の年収は1000万円を超えるのか?進上金の仕組みと高年収の理由
結論から言えば、JRA(日本中央競馬会)の厩務員であれば年収1000万円を超えるケースは珍しくありません。一般的な会社員の平均年収(約460万円)と比較すると倍以上の水準に達する計算ですが、この高給を支えている最大の要因が「進上金(しんじょうきん)」と呼ばれる成果報酬システムです。
競馬法およびJRAの規程により、レースで馬が獲得した本賞金および出走手当などの一部は、関係者に決められた比率で分配されます。一般的な平地競走における賞金分配率は以下の通りです。
- 馬主:80%
- 調教師:10%
- 騎手:5%
- 厩務員(厩舎スタッフ):5%
例えば、有馬記念やジャパンカップといった国内最高峰のG1レース(1着本賞金5億円)を制覇した場合、厩務員サイドに配分される進上金は単純計算で2,500万円に達します。担当厩務員が単独で受け取るか、厩舎全体のプール制(スタッフ全員で均等分配する仕組み)を採っているかによって個人への実入りは異なりますが、トップホースを1頭管理するだけで数百万円単位のボーナスが基本給に上乗せされる構造です。
さらに、JRAの厩務員には基本給のほかに、早朝勤務手当、引き運動手当、競走手当、ナイター手当といった数多くの手当が支給されます。賞金に恵まれないシーズンであっても、安定したベース給与と手当の積み上げだけで年収650万〜750万円が担保されており、そこに重賞クラスの進上金が加算されることで「年収1000万〜1200万円超」に到達する、というのが高年収のカラクリです。

JRAと地方競馬の決定的な違い|給与格差の真相と年齢別平均年収
華やかなJRAの数字の一方で、業界内で深刻視されてきたのが「地方競馬厩務員との給与格差」です。近年、地方競馬はインターネット投票の普及によって売上レコードを更新する主催者が相次ぎ、待遇改善が進んでいるものの、JRAとの間には依然として歴然とした壁が存在します。
主催者の財政力やレース賞金の総額が根本的に異なるため、進上金や諸手当の原資に圧倒的な差が生じるためです。両者の年収水準や待遇の違いを客観的データで比較してみましょう。
| 項目 | 詳細・数値データ | 一般的な基準・相場 | 編集部の見解・評価 |
|---|---|---|---|
| JRA厩務員(平均年収) | 約700万〜900万円(担当馬の実績次第で1200万超) | 日本人の上位10%前後の高所得水準 | 命がけの重労働に見合う高水準。労働組合の交渉力も強固。 |
| 地方競馬(南関東) | 約450万〜650万円(大井・川崎・船橋・浦和) | 民間平均給与(約460万円)と同等〜やや上位 | 地方の中では破格の賞金額を誇り、生活基盤として安定。 |
| 地方競馬(その他地域) | 約280万〜420万円(各主催者の財政状況に依存) | 地方都市の一次産業・サービス業と同等 | 高知や門別などは改善傾向にあるが、手取り20万円未満の現場も残る。 |
| 年代別年収推移(JRA) | 20代:約500万〜650万円 30代:約700万〜850万円 40〜50代:約850万〜1,100万円 | 一般的な年功序列型賃金カーブより立ち上がりが早い | 初任給段階から高額だが、担当頭数や馬の走りに左右される変動リスクあり。 |
かつて地方競馬では「手取り月収15万円前後、ボーナスなし」という悲痛な声が労働組合や関係者手記で明かされることもありました。しかし、近年の売上回復を受けて賞金ベースアップや厩営費補助が実施され、極端なワーキングプア状態からは脱却しつつあります。それでもなお、JRAの圧倒的な賞金規模と比較した際の経済格差は歴然としています。
競馬界のマネー構造|調教師・騎手・厩務員の年収比較と退職金・福利厚生
競馬サークル内のヒエラルキーと収入バランスを整理すると、それぞれの立場における責任とリターンの違いが浮き彫りになります。
厩舎を開業する調教師は、個人事業主(経営者)です。馬主から受け取る預託料(1頭あたり月額約60万〜80万円)から厩務員の人件費や飼料費を支払い、自身の取り分として獲得賞金の10%を進上金として得ます。管理頭数や成績に左右されますが、トップ調教師であれば年収数千万円〜1億円超、中堅でも1500万〜2500万円規模が相場です。
騎手は進上金が賞金の5%と厩務員と同率ですが、騎乗手当(1鞍あたり数万円)や騎乗数そのものが個人の実力に直結します。トップジョッキーが年収1億〜2億円を稼ぎ出す一方、騎乗機会に恵まれない若手や下位騎手は年収300万円台に甘んじる完全実力主義の世界です。
これらに対して、厩務員は調教師に雇用される給与所得者(労働者)という明確な強みがあります。レースで勝てなくても毎月の基本給が保証され、各種手当や賞与が支給されます。特にJRAの場合、強固な厩務員労働組合が存在するため、以下のような手厚い福利厚生が制度化されています。
- 年2回の安定したボーナス:年間でおよそ4〜5ヶ月分前後の支給実績
- 充実した退職金制度:日本調教師会や共済組合による退職金積立により、20〜30年勤続で2,000万〜3,000万円規模の退職金受給が可能
- 労災補償と手当:危険を伴う業務のため、公的労災に加えて共済独自の付加給付が整備
プロスポーツの世界にありながら、サラリーマンとしての安定性と高い退職給付を併せ持っている点は、JRA厩務員が「隠れた高待遇職種」と呼ばれる大きな根拠です。

【実態検証】「朝2時起き・命がけの作業」過酷な仕事内容と離職率のリアル
高年収や手厚い福利厚生という言葉の響きだけでこの職業を選ぶと、ほぼ確実に挫折します。現場の労働環境は、過酷という言葉すら生ぬるいほどの極限状態です。
美浦や栗東のトレーニングセンターにおける厩務員の1日は、午前2時〜3時の起床から始まります。世間が深い眠りについている時間帯に厩舎へ入り、愛馬の体温測定や健康チェック、飼い葉(エサ)やり、そして大量のボロ(馬糞)出しと敷き藁の交換を行います。午前中は調教のサポート、馬体の洗浄、アイシング、引き運動と、息をつく暇もないルーティンが続きます。
何より現場スタッフを精神的・肉体的にすり減らすのが、常に隣り合わせにある重大事故のリスクです。サラブレッドは体重500kg前後の巨大な筋肉の塊であり、極めて神経質な動物です。ほんの少しの物音や気配に驚いて暴れ、蹴られる、踏まれる、壁に挟まれるといった事故で骨折や内臓破裂などの重傷を負うケースは日常茶飯事です。過去には調教中の事故で命を落とした関係者も少なくありません。
業界関係者の手記や退職者の証言でも、「休みの日でも担当馬の疝痛(腹痛)や怪我が気になって気が休まらない」「腰痛と睡眠不足で身体がボロボロになる」といった声が共通して語られています。高年収は、こうした命のリスクと深夜労働に対する「危険手当・特殊労働対価」としての性質を強く帯びています。
競馬学校厩務員課程の倍率と未経験からのルート|ネットの誤解を暴く
ネット上のQ&Aサイトなどでは「未経験からでも求人に応募すればJRA厩務員になれますか?」という質問が散見されますが、これは業界構造に対する完全な誤解です。
JRAの厩務員になるためには、千葉県白井市にあるJRA競馬学校の「厩務員課程」(半年間)を修了することが必須要件となっています。しかし、この門を叩くための出願資格として、「過去3年以内に2年以上、牧場等で競走馬または乗馬の騎乗・育成管理に従事した経験」が明確に義務付けられています。
つまり、完全未経験の人間が直接JRAの門を叩くルートは制度上存在しません。さらに、その要件を満たした実務経験者たちだけが集まる競馬学校厩務員課程の入学試験であっても、合格倍率は例年3倍〜5倍前後に達する狭き門です。体力測定、学科試験、面接に加え、高度な騎乗技術や馬の扱いに長けているかが厳しく選別されます。
未経験者が厩務員を目指す場合の現実的なステップは、まず北海道の日高地方や福島などの育成牧場(ノーザンファーム、社台ファームなど)、あるいは地方競馬の厩舎に求人を通じて就職し、馬の扱いと騎乗のイロハを徹底的に叩き込まれることから始まります。そこで数年間の泥臭い下積みを耐え抜いた者だけが、ようやく競馬学校の受験資格を手にする権利を得るのです。
【プロの結論】厩務員を目指すべき人・避けるべき人の判断基準
高年収という表面的なリターンと、過酷な労働実態というコストを天秤にかけたとき、誰にでも推奨できる職業ではないことは明白です。人生設計を狂わせないための判断基準を明確に提示します。
【目指すべき適性を持つ人物像】
- 動物への敬意と献身性を持ち、自己犠牲を苦にしない人:馬は生き物であり、24時間365日管理が必要です。「休みたいから放置する」ことは許されず、我が子以上の愛情を注げる精神的タフさが不可欠です。
- 規律正しい超朝型の生活に順応できる人:深夜2時起床、夕方就寝という極端な体内時計の狂いに身体が適応できなければ、数ヶ月で自律神経を崩します。
- 肉体的・精神的なリスクを呑み込める人:怪我の恐怖に打ち勝ち、重圧の中で冷静に500kgの巨体をコントロールする胆力が求められます。
【絶対に避けるべき人物像】
- 「競馬が好き」「馬券が好き」というファン目線の延長で考えている人:現場での仕事はギャンブルの華やかさとは対極にある、泥と糞尿と怪我との闘いです。趣味の延長感覚は数日で砕け散ります。
- ワークライフバランスやプライベートの充実を最優先したい人:土日のレース遠征や早朝からの拘束により、一般的なカレンダー通りの生活や友人付き合いを維持することは極めて困難です。

【厩務員の年収】に関するよくある質問(FAQ)
Q1:JRAの厩務員になれば、誰でも年収1000万円に届きますか?
A1:全員が無条件で届くわけではありません。JRA厩務員のベース年収は約700万〜800万円前後であり、1000万円の大台を突破するには、重賞競走で活躍するオープン馬やクラシック戦線に乗る実力馬を担当し、多額の進上金を獲得することが必須条件となります。厩舎がプール制を採用している場合でも、厩舎全体の成績が低迷していればベース給与に近い水準にとどまります。
Q2:未経験から厩務員になる最短ルートはどのような道筋ですか?
A2:未経験の場合、まずは育成牧場や地方競馬の厩舎求人に応募し、最低2年間の実務騎乗経験を積む必要があります。その後、JRA競馬学校厩務員課程(倍率3〜5倍)を受験・合格し、半年間の研修を経て栗東や美浦の各厩舎に採用されるのが正規ルートです。最短でも準備から就職まで3〜4年以上の歳月を要します。
Q3:持ち乗り厩務員と攻め馬手当の違いは何ですか?
A3:以前は「調教に乗る調教助手」と「世話専門の厩務員」で分業されていましたが、現在は厩務員自らが調教にも騎乗する「持ち乗り厩務員」が主流です。自分で調教に乗ることで攻め馬手当が加算され、進上金と合わせて給与水準が大きく跳ね上がる仕組みになっています。
まとめ:過酷さと高待遇が同居する厩務員のリアルを見極める
厩務員という仕事は、世間一般のサラリーマン像とは完全にかけ離れた、特殊かつ職人性の高い専門職です。JRAにおける平均年収700万〜900万円、あるいはトップクラスの1000万円超えという数字は事実ですが、それは深夜労働、日常的な怪我の危険、そして自らの生活すべてを競走馬に捧げる覚悟に対する正当な対価にほかなりません。
地方競馬の経営基盤強化やJRAにおける労働条件改善の議論が続く2026年現在においても、その過酷な本質は変わりません。目先の高収入や華々しさに目を奪われることなく、命を預かる重責と厳しい就職ハードルを冷静に見据えた上で、自らの適性をシビアに見極める姿勢が不可欠です。 (出典: 厩 務 員 年収(Yahoo!ニュース))